健康経営を新規プロジェクトに位置づけ、企業力を高める!
―福島県須賀川すかがわ瓦斯がす株式会社―

健康経営は事業目標を達成するための経営手法の一つ。 本業との結びつきを意識した目標設定と体制づくりがポイント。 社員みんなが楽しく取り組める企画を通じて、社員一人ひとりの取り組みとその成果を評価し、組織の健康風土づくりと意識統一を目指す。

1 健康経営の実践者紹介

須賀川瓦斯株式会社 代表取締役社長 橋本直子 様
須賀川すかがわ瓦斯がす株式会社 代表取締役社長 橋本直子 様 福島県須賀川市、総合エネルギー事業、社員230人 須賀川瓦斯株式会社は、「社会に奉仕」を基本理念とし、生活に欠かせない「エネルギー」の供給を通じて、地域の皆様の快適な生活の実現をサポートしています。

2 取り組みの概要

名称:須賀川ガス『健康増進プロジェクト』
  • 1. 血圧測定、運動プログラム 全社員共通のチャレンジシートで健康づくりのPDCAサイクル!
    • 対象:130名(本社社員50名+事業所社員80名)
    • 期間・方法:
      • 2018年1月10日~3月15日、日々の歩数と血圧の測定結果を指定の様式「自分にチャレンジ」*に記録(歩数は平日の勤務時間外、休日も対象)。毎月、記録を報告。
    • 実施体制:
      • 歩数計を全社員へ配付。
      • 血圧計を各事業所へ1台ずつ設置。
  • *様式「自分にチャレンジ」は、社員一人ひとりの目標設定、毎日のモニタリング(血圧、歩数、健康のために気を付けたこと・実行したことの記録)、取り組み後の評価ができるPDCAを回すための記録シート。

  • 2. スマート和食プログラム 「内臓脂肪をためにくい弁当」を社員に提供!
    • 対象:50名(本社社員)
    • 期間・方法:
      • 2018年1月9日、第1回内臓脂肪測定により社員個人の生活習慣を分析。しっかり食べて太りにくい「食べ方」に関する特別講義を開催。
      • 同年1月9日~3月15日、勤務日の昼食に「スマート和食」を配食。
      • 同年2月9日、第2回内臓脂肪測定により内臓脂肪の変化を確認。その際、福島県労働保健センターの保健師が食事相談を開催。
      • 同年3月16日、第3回(最終)内臓脂肪測定により効果を確認。
      • 同年3月28日、成果の報告会を開催。
    • 実施体制:
      • 花王株式会社が地元の弁当業者・有限会社なかむらへ、スマート和食*の商標ライセンスの提供と献立監修。
  • *スマート和食は、1万人を超える日本人の生活と内臓脂肪の解析を基に、内臓脂肪をためにくい食事の「質」に着目した食事法。花王株式会社の登録商標。
以上の取り組み成果をもとに、2018年4月(お花見会)にて、血圧部門・歩数計部門・内臓脂肪部門の上位3名に東京ディズニーランドペアチケット等の記念品を贈呈。さらに特別賞として、「自分にチャレンジ」で設定した個人目標を達成できた社員や、毎日の健康行動を細かく記入し意欲的に取り組んだ社員3名に努力賞を贈呈。

3 健康経営の取り組みを始めたきっかけは?

毎年5月の健診結果に基づいた協会けんぽ福島支部の「事業所健康度レポート」において、 “各年代(40歳代、50歳代、60歳代)において高血圧者が他企業より多い”ことを指摘されました。また、社員の高齢化も進んでいる中で、福島県から新規プロジェクト「元気で働く職場応援事業」にお声がけいただき、健康経営の実施に至りました。

4 取り組みの狙いは?

 「健康経営」の取り組みの中で1つの共通目標を掲げ、社員の意識を統一する狙いがありました。ここでポイントとなるのが、本業のエネルギー事業とは直接関係のない目標を掲げることです。健康経営や働き方改革は、社外に向けたメッセージの発信に加え、社内に向けたメッセージ性もあります。社員が楽しく取り組みに参加することで、モチベーションの高まりと共に「会社がこういうこともやっている」「こんな会社で働いている」というようなメッセージ性を感じられます。健康経営の取り組みを通して「我々の会社」という価値を高めることが、実は大きな意味を持つと考えています。

5 始めに取り組んだことは?

健康経営を全社プロジェクトに位置づけて3つのことに取り組みました。  1つ目は通常、商品・サービスの販売促進プロジェクトを企画する月1回の代表者会議で、『健康増進プロジェクト』を全社的に取り組むことを伝えました。代表者会議は各部門の課長クラスの中堅社員で構成しており、本プロジェクトに関しても通常の販売促進プロジェクト同様、部門メンバーのモチベーションを高めながら参画してくれました。  2つ目は、本プロジェクトをブランディングして社内外にPRできる社員を推進役に選任したことです。推進役となった女性社員は、日頃より折り込みチラシやLINEなどで当社のサービスを案内する業務を担当しています。広報の知見と会社の良い取り組みを発信したい熱意を持った社員が推進役になることで、取り組みに関する社内への発信やテレビ取材などメディアを通じた社外への発信も頑張ってくれると期待していました。  3つ目は、社員にとって居心地の良い取り組みにすることです。「お弁当の補助金はいくら出すと良いだろうか?」「おにぎり2つ買うと200円は払っているよね?」など、お弁当の費用ひとつとっても、福島県県中保健所の担当者に相談にのっていただきながら、社員が無理なく楽しく参加できる取り組みを企画しました。

6 取り組みの効果は?

 まずは健康課題の改善です。血圧の有所見者は、プログラム実施前(平成29年度)の11人から、実施後(平成30年度)は6人に減少しました。また、毎昼食に「スマート和食」を導入した対象者50名のうち、39名(78%)の内臓脂肪が減少、その結果、内臓脂肪肥満者率が34%から26%に減少しました。さらに、取り組みを通して職場のコミュニケーション向上につながっていると感じています。検査値なども良くなり、健康になったからはつらつとして、はつらつとしているから生産性が上がったというよりは、取り組みを通してコミュニケーションが増え、雰囲気が良くなったというほうが実感できる効果だと思います。例えば、スマート和食に取り組む社員は、給湯室で「内臓脂肪をためにくい弁当」のメニューを話題にしていました。私自身も社員に話しかけやすくなり、「どうでした?」とか「おいしかった?」という業務以外の健康ネタが、社員とのコミュニケーションを図るにあたり肩の力が抜けて良いのかなと思いました。
 また、歩数計を活用した運動プログラムは、本社のメンバーだけでなく県内の全店舗・全社員の気持ちを一つにする狙いがありました。実際に取り組んでみて、プロジェクトを社員全員でやっているような一体感を醸成できたように思います。取り組みの成果によっては記念品がもらえるため、社員が楽しそうに参加していることは予想以上に良かったと感じています。また、実際に記念品を受け取った上位者は、会社の新しいプロジェクトにはいつも一生懸命に取り組んでくれる社員で、今回も会社の考えを理解して熱心に参加してくれたので、同僚も納得の結果でした。  さらに、地域社会における企業価値の向上につながったと感じています。本プロジェクトは最終的にテレビ、新聞等で報道されました。その結果、思っていた以上に地域の皆さまから「見ましたよ。楽しそうですね。」とか「どこのお弁当?」とかコメントをいただきました。メディアの影響により、例えば営業の際に健康経営の話題で盛り上がり、地域のお客さまとの関係も良くなります。社員の中にも「地域を牽引する企業」としての自覚や社会貢献の意識が浸透してきました。

7 取り組みで苦労したこと、工夫したことは?

事業を始める土台・土壌づくりです。健康経営は事業目標を達成するための経営手法の一つであり、特に当社のような事業所が点在する中小企業においては、社員をまとめ意識を高める手段として有効と考えています。そのため、取り組みがただの“お楽しみクラブ”になってしまってはいけません。数字に基づいて良かったとか、もっとこうした方が良いとか、取り組みをきっちり評価できる土台・土壌をつくることが大切です。その上で、本業との結びつきを明確にし、めりはりをつけながらプロジェクトを実施できるように工夫しました。

8 今後の計画・目標は?

 当社では本業において2015年、電力事業を新たに立ち上げました。事業を拡大し社員数も増えていく中で、社員をいかに意識統一して士気を上げ、かつ、一緒に頑張ろうという気持ちにしていけるかが大切と考えています。例えば、1万件の顧客獲得という具体的な事業目標を達成するためには、社員の気持ちがばらばらでは不可能です。そこに統一感や一体感を生み出すためには、健康経営の取り組みを更に推進しながら意思疎通を図っていくことが重要と考えています。そこで、今後の具体的な取り組みとしては、2019年10月に開催される地元・須賀川市のマラソン大会に、会社のユニフォームを作って出場する予定です。  また、当社はフィットネス事業を運営しています。その知見を生かして今後、当事業に従事する社員が地域住民の健康づくりや、企業の健康経営の取り組みをサポートさせていただければと考えています。  そして、このような取り組みを通して結果的に、地域に密着して貢献する企業として、既存の社員にも地元の学生にも評価され、人材の定着・採用につなげていきたいと考えております。

取材を終えて一言

橋本社長、ご協力いただきましてありがとうございました。  須賀川瓦斯株式会社の取り組みの特長は、健康経営を全社プロジェクトの一つに位置づけ、社員の意思統一の経営手法として実践されたことと言えます。具体的には、本業の新規プロジェクトと同様の手順で、部門ごとに組織として参画意識を高めると共に、取り組みに関する社内外へのPRを見据えて広報担当スタッフを推進役に選任されたことが効果的であったと感じます。また、「自分にチャレンジ」シートを用意して、意欲的にプロジェクトに参加した社員を丁寧に評価できる仕組みを設計されていたことが印象的でした。  今後、須賀川瓦斯株式会社のように、従来の健康管理・メンタルヘルス対策などの産業保健の視点に加え、本業の事業拡大やそれを実現する組織づくりのための経営手法として健康経営を実践する企業が増えることが期待されます。
東京大学 未来ビジョン研究センター データヘルス研究ユニット 村松賢治

※「健康経営」は特定非営利法人健康経営研究会の登録商標です。

共創者からひとこと

  1. q-station.jp said on 2019年7月29日 at 5:53 PM

     福島県は、2011年の東日本大震災と原子力災害の後、県民の健康指標が大きく悪化しました。そのため、県では健康長寿県をめざし、食・運動・社会参加を3本柱とする健康づくりに取り組み、2017年度からは、働き盛り世代の健康づくりとして「健康経営」に着目した事業『「元気で働く職場」応援事業』を開始しました。

     須賀川瓦斯株式会社様は、当事業を活用し、会社として熱心に健康づくりに取り組まれ、健康課題の改善、職場環境や企業価値の向上まで効果を得るにとどまらず、健康に関する地域イベントの開催や地域の健康づくり事業との連携等、地域活動へも御貢献されており、事業所が一体となって健康づくりに取り組む姿勢の素晴らしさを感じるとともに、健康経営に取り組むことによる大きな波及効果を感じています。

     また、須賀川瓦斯株式会社様は、当事業の事例発表や健康経営普及に向けたシンポジウム等に快く御対応いただき、他企業が健康経営を考えるきっかけづくりや当事業の普及啓発に御貢献いただけたことで、経営者や働き盛り世代への効果的なアプローチを進めることができました。

     その他、当事業を進めていく上で、医療保険者や労働保健センター等の職域関係者との連携をより推進していく契機にもなりました。

     須賀川瓦斯株式会社様の取組を参考にさせていただきながら、今後も健康経営の普及啓発等の取組・支援を実施していきたいと考えております。

    福島県健康づくり推進課